出入国在留管理庁が、不法滞在者の強制送還に関する重要なルール変更に踏み切ります。これまで代理人弁護士に対し、原則2か月前に送還予定を知らせていた「弁護士通知」制度が廃止される方針となりました。この決定の背景には、通知を受けた外国人が送還直前に逃亡する事案が相次いでいるという深刻な実態があります。
治安維持と法執行の厳格化が求められる一方で、この変更は憲法が保障する「裁判を受ける権利」を侵害するのではないかという懸念の声も上がっています。なぜ長年続いてきた運用が今、廃止されなければならないのでしょうか。あなたも、日本の入管制度のあり方について疑問に思ったことはありませんか?本記事では、この問題の核心に迫ります。
この記事の要点
- 入管庁が強制送還の「弁護士通知(2か月前予告)」を廃止する方針
- 廃止の主な理由は、通知後の逃亡事案発生やSNSによる抗議・混乱の防止
- 不法残留者は約7万4800人に上り、送還の厳格化が急務となっている
- 日弁連は「裁判を受ける権利の軽視」として強く反発し、協議が続いている
1. 強制送還の「弁護士通知」廃止の概要
出入国在留管理庁(入管庁)は、不法滞在などで強制送還の対象となった外国人の代理人弁護士に対し、送還時期を事前に通知する現行の運用を廃止する意向を固めました。この「弁護士通知」は、2010年の民主党政権下で当時の法務省と日本弁護士連合会(日弁連)が合意したもので、原則として送還の2か月前に「〇月第〇週」といった形で時期を知らせる仕組みでした。
入管庁は2025年内にもこの運用を廃止し、送還の厳格化を図る方針です。なお、本人に対して「1か月後以降に送還する」という概括的な告知は継続されますが、弁護士への具体的な時期通知がなくなることで、送還プロセスの不透明化を懸念する声も出ています。
2. 運用見直しの背景と発生した逃亡事案
なぜ、長年維持されてきた通知制度が廃止されることになったのでしょうか。その最大の理由は、制度の「悪用」とも取れる事態が顕在化したことにあります。当局の関係者によれば、2019年以降、送還時期を事前に知った対象者が逃亡するケースが少なくとも7件発生しました。
2025年末時点でも5件は行方が分かっておらず、法執行の大きな妨げとなっています。また、送還時期がSNSで拡散され、入管窓口に大量の抗議電話が殺到して業務が麻痺したり、直前のキャンセルによって多額の航空機キャンセル料(約300万円に上る例も)が発生したりするなど、実務上の弊害が無視できないレベルに達しているのが現状です。
3. 関係者の動向:入管庁と日弁連の対立
入管庁はすでに日弁連に対し、ルールの見直しに向けた協議の中で廃止の意向を伝えています。これに対し、日弁連側は強く反発しています。日弁連の担当者は、「送還時期の不意打ちは、裁判を受ける権利を軽視するものであり、人道的観点からも問題がある」と主張しています。
日弁連側は、すでに例外的な「直前通知」が常態化しており、合意違反の状況にあると指摘しています。両者の溝は深く、今後の協議が難航することは避けられない見通しです。
4. 不法滞在者の現状と送還の実施状況
2025年1月時点でのデータによると、日本国内の不法残留者は約7万4800人に上ります。2024年には約7600人の送還が実施されましたが、依然として多くの対象者が国内に留まっている状態です。政府としては、送還忌避問題を解消し、適正な入国管理制度を維持するために、ルールの厳格化が不可欠であると判断しています。
5. 行政および警察の今後の対応策
通知制度の廃止に伴い、行政側は送還手続きのスピードアップと確実性の向上を目指します。逃亡のリスクを最小限に抑えるため、送還直前まで詳細な日程を明かさない運用が徹底される見込みです。また、逃亡が発生した際の警察との連携強化や、不法滞在者の所在把握に向けた監視体制の最適化も検討されています。
6. 専門家による法的見解と分析
法学の専門家からは、複数の視点が示されています。一つは、行政処分としての強制送還において、対象者の防御権(裁判を受ける権利)をどこまで保障すべきかという点です。もう一つは、逃亡という実害が出ている以上、公共の福祉の観点から手続きを制限することの妥当性です。
「適切な司法アクセスを担保しつつ、実効性のある送還を行うためのバランスをどこで取るべきか。現行の2か月前という期間が適切だったのかを含め、再検討が必要だ」との指摘があります。
7. SNSや世間の反応:二分される世論
このニュースに対し、SNS上では多様な意見が飛び交っています。賛成派からは「不法滞在は犯罪。逃亡されるくらいなら通知なしで当然」「税金の無駄(航空機のキャンセル料など)を省くべきだ」といった声が多く聞かれます。
一方で反対派や人権団体からは「弁護士にすら知らせないのはあまりに強権的」「適正手続き(デュー・プロセス)が守られない国になってしまう」という批判も根強く、世論を二分する議論となっています。
8. 今後の見通しと社会への影響
入管庁は今年中にも新しい運用を開始する予定です。これにより、送還の成功率は高まる可能性がありますが、同時に代理人弁護士による「執行停止」の申し立てなどが、より迅速かつ激しく行われることも予想されます。また、国際社会からの人権に関する評価にも影響を与える可能性があり、日本政府の舵取りが注目されます。
よくある質問(FAQ)
Q:なぜ2か月前という長い期間が設定されていたのですか?
A:送還取り消しの訴訟を準備し、憲法が定める「裁判を受ける権利」を実質的に保障するため、2010年に法務省と日弁連が合意した期間です。
Q:通知を廃止すると、全くいつ送還されるか分からなくなるのですか?
A:本人に対しては「1か月後以降に送還する」という旨は伝えられますが、具体的な「〇月〇日」といった日程は伏せられることになります。
Q:逃亡した人はどうなるのですか?
A:警察等と連携して行方を追うことになりますが、一度行方が分からなくなると発見は極めて困難になります。
まとめ
強制送還の「弁護士通知」廃止は、逃亡という実害を防ぐための苦渋の決断といえます。しかし、人権保護と法執行の厳格化という、相反する課題をどう両立させるかは依然として大きな課題です。今後、具体的な運用指針がどのように策定され、司法のチェックがどう機能するのか、注視していく必要があります。
